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名古屋高等裁判所 昭和50年(ネ)374号 判決

控訴人

妹尾実

妹尾孝枝

右両名訴訟代理人

福岡宗也

田畑宏

被控訴人

堀田勇

右訴訟代理人弁護士

伊藤淳吉

外二名

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所もまた原審と同じく、控訴人らの本訴請求は失当として棄却を免れないものと判断する。その理由は、次のとおり補足訂正するほか、原判決理由説示と同じであるから、ここに右記載を引用する。

一被控訴人は、原審において、被控訴人車を所有し、自己のため運行の用に供していたとの点を認める旨陳述したが、右は事実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるから、右自白を撤回する旨主張し、控訴人らはこれに対し異議を述べた。そこで、検討してみるに、被控訴人が訴外会社の代表社員であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると、被控訴人車は訴外会社の所有であること、被控訴人は、本件事故当日、私用で則武医院へ通院すべく被控訴人車を運転して出かけ、その帰途本件事故に遭遇したものであつて、右運転が訴外会社のためになされたものでないことが認められる。右事実によれば、被控訴人車は訴外会社の所有ではあるけれども、被控訴人は被控訴人車を自己のために運行の用に供していたものということができるから、少なくとも、この点に関する部分につき、これを認める旨述べた被控訴人の陳述は、真実に合致し、錯誤に基づくものとは認め難いので、被控訴人の右主張は採用できない。

二原判決七枚目表末行に「甲第一」とあるを「甲第四」と、同八枚目表八行目に「本件交差点」とある部分から同一〇行目に「三五メートル」とある部分までを「本件交差点で右折すべく南進車線に進入して間もなく、中央分離帯の東端との間に約1.4メートルの間隔を保ちながら南進車線の右側部分を走行し、後記衝突地点から三〇メートル」とそれぞれ訂正し、その裏五行目に「そのとき被控訴人車の後部が右側において約一メートル、左側において約二メートル南進車線上にはみ出ていた。」を加える。

三原審の認定した事実を支持する証拠として、〈証拠〉を加える、〈証拠判断略〉

四控訴人らは、本件事故は被控訴人が本件交差点を右折するに際し、後続車に対する注意を怠つたばかりでなく、右折の合図をしておらず、仮に、本件交差点の手前二〇メートルの地点で合図したのでは遅きにすぎ、また、一時停止した際も被害車の進行車線上に被控訴人車の後部をはみ出したままの状態にするなど、被控訴人の後方確認義務違反および右折方法違反の過失に基づくものである旨主張し、〈証拠〉中には右主張に副う供述部分が存するけれども、〈証拠判断略〉他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

なお、敷衍するに、本件事故当時施行されていた道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの。)は、右折車とその後続車との関係につき、その三四条二項、五三条一項において、右折しようとする車両は右折の合図をするとともに、できる限り道路の中央に寄つて右折の意図あることを他車に示すべきものと規定する一方、その三四条五項、二八条一、三項において、後続車は、右合図がなされたときは、その先行車の進行を妨害してはならず、これを追い越すに当つては先行車の速度、進路ならびに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で先行車の左側を通行すべきことを定めていた。これらの規定からも明らかなように、右折車が右規定に従い右折の準備態勢に入つた後は、後続車の運転者は先行車の右折に対処する措置を講じなければならないのであつて、その本来負つている前方注視義務を怠らない限り、先行車が右折しようとした場合、直ちにこれに対応する措置をとることが容易なはずである。したがつて、右折しようとする車両の運転者は、その時の道路および交通の状態その他の具体的状況に応じた適切な右折準備態勢に入つた後は、特段の事情がない限り、後続車があつても、その運転車において、右法規に従い追突等の事故を回避すべく正しい運転をするであろうことを期待して運転すれば足り、それ以上に違法異常な運転をする者のありうることまでを予想して周到な後方安全確認をすべき注意義務はないものと解するを相当とする。

これを本件について見るに、被控訴人は、被控訴人車を運転して本件交差点を右折するに際し、南進車線の右側に寄り、かつ、本件交差点の手前約三〇メートルの地点において、右折の合図をしながら本件交差点にいたり、同所に自車の後部を南進車線に約二メートルはみ出したままの状態で停止したものの、その左側は車両が通行しうるだけの十分な余裕があつたことはすでに認定したとおりであり、したがつて、被控訴人は、被控訴人車を運転するにつき、交通法規に従い適切な右折方法を講じて、その準備態勢に入つたものということができ、しかも、その時点で被害者の運転していた自動二輪車との車間距離が四五メートルもあつたのであるから、後続車を運転していた被害者としては、前方注視義務を尽していたならば、右折の準備態勢に入つた被控訴人車の動静を把握し、これに対処することが極めて容易にできたはずであつて、その進行車線上に被控訴人車の後部がはみ出したままの状態で停止していたとしても、そのことから右折方法違反の過失があつたということはできない筋合いである。よつて、控訴人らの前記主張は採用できない。

右と同旨に出た原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法三八四条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(三和田大士 鹿山春男 新田誠志)

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